さちこの部屋(130)
「母、Y子」
私の母は認知症だ。
ここ数年、坂を転げ落ちるように症状が進み、もはや我が子のことも、あんなに可愛がっていた孫たちのことも誰やらわからない。
数年前から、時おり辻褄の合わないことを言うようになり、「なんかおかしくない?まさか認知症…?」と姉と話していたが、元々天然なところがある母だったので、当初は認知症の始まりなのかいつもの天然ボケなのか判別がつかなかった。
だが母がある時、加熱していないえのき茸を生野菜のサラダに載せて食卓に出したそうだ。(生のえのき茸は消化しにくく、消化不良を起こす可能性あり。また、細菌や寄生虫が付着している可能性があり、これらの微生物による食中毒のリスクもあるそう。)
同居している兄は「こんなの食べられるわけないだろ!何やってるんだよ!」と激怒したらしいが、その件を聞いた姉と私は「これは…!?」と震え上がった。
長年、専業主婦として台所の全てを取り仕切ってきた母がそんな凡ミスをするとは考えられない。
明らかに普通ではない。
絶対に認知症だ!と確信したからである。
「生えのきサラダ事件」以前から、姉と私は「うちの母は絶対にボケるタイプ。」と思っていたので、何か習い事をさせて趣味を持たせようとしたり、体育館に連れて行って一緒に運動しようとしたり、家で体操するように何度も促したりとあれこれ勧めたのだが、母は何ひとつやろうとしなかった。
若い頃は近所の友人とお茶のみしたり外出したりもしていたが、20年前にこちらに引っ越してきてからはお隣さんと少し交流があるくらいで、自ら積極的にコミュニティの場に出ることも新しい友人を作ろうともしない。
趣味だった編み物は、目が辛くなってからは一切やめてしまって無趣味。
運動はとにかく嫌い。
料理上手で家事全般はきっちりとこなし、愛情深く育ててくれた良い母だが、スーパーに買い物に行く以外は毎日家にこもっていて能動的に活動しようとしない。
これじゃあ絶対にボケるー!と常々思っていた。
母が運動しようとしない言い訳のひとつに、椎間板ヘルニアを患っていたということがある。
確かに激しい腰痛と痺れで辛いだろう。
でも医師からはできる範囲でなるべく身体を動かし、筋肉をつけるよう言われていたのだから自ら積極的に取り組むべきだったが、母はヘルニアを理由に一切運動をしなかった。
体育館にお越しになっている母と同世代の方々も、同じように痛みを我慢しながら健康維持のために努力されているのだからと何度も母に伝えはしたのだが、母には響かなかったようだ。
もう50代以降は、どこかしら身体の不調を感じている方がほとんどだろう。
加齢により致し方ないことではあるが、できるだけ老化は緩やかに、そして自分の身体の弱いところをカバーし、持病とうまく付き合って、なるべく日々快適に過ごせるようにするしかない。
時々、レッスン中に「イテテ…💦」と腰やら肩やら膝などを痛そうにされている方を見る度に、母ももう少し自分の身体のことを真剣に考えてくれていたら…と思わずにはいられない。(何でもかんでも運動すれば良いわけではないですよ。怪我や持病のある方は医師から運動の許可が下りてから。)
運動は嫌い、コツコツと継続することも苦手な母だが、唯一山登りは好きだった。
山登りといっても、小学校低学年の子どもでも登れるくらいの低い山だが、東北の自然豊かな地で育った母は里山の風景や花を観るのが好きで、うちの子ども達が小さい頃は、登山が趣味の元夫がよく母も一緒に山に連れて行ってくれた。
するとあんなに普段「腰が痛くて痛くて…。」と辛そうにしていた母が、山歩きをしている時は足取りも軽く、下山するときまでほいほいとよく歩くではないか。
おいおい。
いつもの腰痛はどしたーいっ😑
まあ、それでも元気に歩いてくれるなら喜ばしいことではあるが、年に2〜3回山歩きをしたとてストレス発散にはなるだろうが、健康維持、増進とまではいくまい。
それならせめて、何年先も大好きな山歩きを楽しめるように、普段からウォーキングして体力や筋力維持に努めよう!と奮起してくれれば良いが、自宅に帰るとまた動こうとしない母。
今となっては家の中を歩くのも危なっかしいので、とてもじゃないけど山歩きには連れて行けないが、少し前にこんなことがあったらしい。
姉が少しでも母を歩かせようと、近所の公園に母を散歩に連れ出した時のこと。
億劫そうにヨタヨタと歩いていた母が、公園の花壇の花を見たとたんにシャキーン!となり、花壇目掛けて一直線にスタスタと歩き出したそうだ。
ボケてしまっても、そういうところは変わらないんだなー。
そういう時は痛みを感じないのか?
歩くのもやっとという筋力低下っぷりだが、その時だけ急にスタスタと歩けるのは何故か?
仕事柄とても興味深いので母に訊いてみたいところだが、今となってはもうまともな返事は返ってこないだろう。
来週に続く。
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